境界線

2003年12月16日


ひどくせわしない建物だった
文化祭が催されており
渡り廊下には人がひしめいている
それでいて
どこかの教室では試験が行われているらしく
騒ぎを咎める教師の姿がある
ある教室のドアが取り払われており
手書きで うどん屋 と書かれた紙に
色紙で作った輪が飾られている
誰かに食べさせる為に
作ってるんじゃないんだ、と話しながら
うどんの入ったずんどうを
かき混ぜる学生がいる
言った側からうどんを盛り
どうぞ食べて行って下さいと
廊下を行き交う人々に
深々と頭を下げて懇願する
学生は成長して大人になっても
万事がそんな調子であった
要約すると
チェスをして負けると
将棋なら勝てたのに
と言い訳をする性格である
大人になっても普段着は学生服で
学生はずっと学生のままであった
最期に建物を出る時に彼は
噴水の前
気狂いのようにアカペラで
歌を歌い続ける若者を見る
まるでお前はダナエのようだ
と学生は若者をなじるともなくなじった
はじめの頃は聞いて聞かないふりをしていたが
何度目かのおなじ中傷のような吐き捨てに対し
若者は歌うのをやめ
学生の前につかつかとやって来て
金属バットを振りかざした
このとき学生は
喧嘩を売る相手を間違えた
と初めてことの重大さに気付くが
本来先に喧嘩を売ること自体が
精神構造上大きな間違いな訳で
学生はここでまたしても
愚かな勘違いをしていたと言える
しかし世界はこの後学生が定めた戒律
ヒゲの生えた男を捕まえれば
先に手を出しても免罪符を発行するという
理不尽なルールを忠実に遂行した
話は戻るが今はそうした戒律は未だ無い
若者は金属バットを振りかざした
学生は恐怖し
お前は暴力でことを解決するつもりか
と叫んだ
若者はバットをかざしたままの体勢で
TTで言えば当たり前のことだ
と告げる
学生はTTを知らず
まして友達とがやがや
遊んでみた経験などは無かった為
何を言ってるんだと焦燥した
こちらの知らない語句を引用するな
と憤慨する
若者は相変わらずバットを高く持ちながら
お前はそれでよく恥ずかしくも無く
ダナエなんぞを例に出したものだ
と吐き捨てた
学生の顔がみるみる赤面する
自分はどこまでバカだったのだと
みるみる赤面する
この情報化社会で
汎用性のない単語を
味では無く
知識として平気で使う愚
自分の知りもしない分野で
知らない単語が日々生まれているというのに…
学生は悔しさに
お前はダナエでさえ汎用性がないと言うほど
無知なのか
と言うと若者は
「お前は自分が無知であることも知らないのだな。その比喩自体おかしい。専門家が聞いたら腹を抱えて笑うだろう。日頃とってつけたような謙遜ばかりしているからだ」と答えた
学生は怒りに震え
あんな下手な歌を噴水の前で歌った癖に!
とすり替えて叫ぶ
じゃあお前が歌ってみろ と若者
学生は何故こんな状況になっているのだろう
と自らに疑問を抱きながらも
ラ〜と歌いはじめ
周囲の人々の失笑を買った
歌声は救いようの無いほどしわがれていた
「もともとは若く いい声だったんだ!本当だ!音楽で5をとったこともあるんだ!というより、カラオケボックスで伴奏と共に歌えばもっと」
若者は
「そんなの当たり前だろうが」
と笑い
とうとう学生を殴り殺してしまった
これが気狂いな若者に取って
おあいこに相当するという訳だ
中傷は気分がいい上にバカでもできるが
ときどきこうして
割の合わないお礼を貰ったりして大変
お陰で歴史は変わり
先のおかしな戒律は生まれなかったが
学生がいようといまいと
結局のところ似たような
あほらしい現代である
 
 
 
 

 


 
 
  
 

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